はじめての通訳(YS-75)

予備自衛官として

先日も予備自衛官のことを書きましたが、今年初めて参加した日米方面隊共同指揮所演習について触れたいと思います。

今月(平成30年12月)私が参加したのは、YS-75という訓練です。
陸上自衛隊北部方面隊が主体となり、米陸軍第1軍団と共同で地図上の戦闘シミュレーションを行う訓練です。
実動訓練ではないので、部隊を用いた射撃などの訓練はありません。
※演習の通称:YS-75(Yama-Sakura75)

私の担当は自衛隊と米軍の通訳です。
今回は、予備自衛官が行う通訳業務に興味がある方に向けて、通訳体験記を記したいと思います。
演習の機密に触れない範囲での記述になる点はご容赦ください。

自衛隊と米軍は定期的にさまざまな共同演習を実施しています。
演習のあらましは防衛省のホームページで公開されています。
下記の図から防衛省統合幕僚監部のホームページに飛ぶことができます。

防衛省統合幕僚監部ホームページより

まず、私は「技能:語学(英語)」のカテゴリーで採用されています。
英語力が英検準1級相当として3等陸曹の指定を受けています。
本当は英検は受けたことがないのですが、昔サラリーマン時代に受けたTOEICで受験させてもらえることになりました。
自衛隊内で基準がありまして、私のTOEICのスコア(点数)を自衛隊で換算すると英検準1級扱いになるそうです。
ちなみに英検1級相当だと2等陸曹指定となります。
※3曹も2曹も訓練手当に違いはありません。

平成23年に予備自衛官に採用された時、「有事の際に米軍との通訳を務める」と説明を受けました。
でも、これまで受けてきた定期訓練は射撃や小銃の手入れ、体育や座学、基本教練など一般的な訓練ばかりです。
実際に通訳するのは生まれて初めてです。
今回の訓練はさすがの私も大変緊張いたしました。

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英語が苦手なわたし

不肖私、カタコトの英語は話せますが、通訳などやったことがありません。
自分の意思を英語で伝えるのと、他人の考えを英語で伝えるのは結構レベルが違います。
そのうえ、軍事英語など習ったことも聞いたこともありません。

そもそも自衛隊で使われている言葉は日本語でも馴染みのない言葉が多く、たとえば、高射砲と榴弾砲、迫撃砲の違いなど、素人には分かりずらいものです。
まして、これを英語でなんと言うのかは、習ったことがなければ分かりません。
聞いた話では「軍事英和辞典」が駐屯地内の売店で発売されているそうです。
これがあれば事前に予習できるのですが、常備自衛官以外は購入できないそうで、われわれ予備自衛官は購入が許されていません。
メルカリやヤフオクで探したのですが、出品されている様子もありません。
つまり日本では軍事英語を予習する術がないということです。

「まあ仕方ない、どうにかなるだろう」


いつも楽観的な私は、なんの予習もなしで、演習に参加してまいりました。
スマホも持ち込み禁止で、電話ところか辞書アプリを使うこともできません。
12月上旬から中旬にかけて、ぶっ通しの8日間。
一人社長ですから、その間は会社の営業もお休みです。

訓練会場は北海道千歳市にある陸上自衛隊東千歳駐屯地です。
JR千歳駅から徒歩で1時間ほどの場所にあります。
駅から駐屯地行きの直通バスもありまして、市街地を経由することだいたい30分くらいで到着します。
東千歳駐屯地は戦後しばらくの間は米軍キャンプとして占領されていました。
そんな経緯で、敷地内には沖縄の米軍キャンプに似た建物が多く並びます。

今回の演習で訪れた東千歳駐屯地では、国旗・日の丸の横に米軍の星条旗が高く掲げられていました。
駐屯地内に米軍の軍人さんが大勢闊歩していて、まるで日本ではないようです。
もともと駐屯地内は自衛官以外立ち入り禁止ですが、その中に鉄柵で仕切られた演習地域にさらに厳しいゲートが設けられています。
ゲートでは自衛官と米兵が歩哨に立ち、セキュリティチェックを行っています。
入場許可証がないと自衛官でも演習地域に立ち入りできません。

私が割り当てられた仕事は、あるセクションで米軍と自衛隊の会議の通訳と書類の翻訳作業でした。
常備自衛官4名と予備自衛官2名でチームを組んで仕事を行います。
訓練は敵との交戦中という設定で勤務は24時間体制。
常備自衛官が日勤と夜勤をシフトで分担しています。
予備自衛官は朝7時から夜7時までの日勤です。
勤務地は宿営地の天幕(テント)のなかです。
冬の千歳ですから、ストーブを点けてもテントの中はかなり寒いです。
札幌よりも体感で10度くらい低い感じです。
ときどき油が切れてストーブがつかない時もあり、手がかじかむような環境です。
ふだんダラけた生活を過ごしている自分には堪える勤務でした。

米軍英語にびびりました。

最初は日米の合同会議に見習いで参加しました。
参加者は30人くらい。
大型ディスプレイに映し出された資料について、日米がそれぞれ昨日の戦況報告を行います。

これを常備自衛官が通訳するのですが、まあ、びびりました。
米軍の英語が全くわからないのです。
軍事単語が特殊なのはすでに述べたとおりですが、これらの略語が多く、なにを言っているのか、さっぱり理解不能です。
通訳が話す日本語もよくわからないくらいです。
いわゆる業界用語というのでしょう。
たとえば、MEB、FPOL、AORなどという略語。
これらの意味は分かりますでしょうか。
(ちなみに、MEB: Maneuver Enhancement Brigade、 FPOL:Forward Passage of Lines 、AOR:Area of Responsibilityの略だそうです)
あとで聞けば、「ふーん、なるほど」ということですが、私も歳でボケてきたのか、用語がなかなか一度で覚えられません。

また、米軍の高位の指揮官はきれいな英語を話すので分かりやすいのですが、なまりがあって聞き取りにくい米軍さんもいらっしゃる。
あまりに何もわからないので、本当に途方にくれました。
「これを8日間もやるのか、、、」と。

デイリーの大きな会議の通訳の他に、ちょっとした打ち合わせの通訳もあるのですが、お恥ずかしながら呼ばれるのに尻込みする始末でした。
英語から日本語の通訳はまだいい。
中身が大まかに掴めれば日本語で話せるからです。
ところが、日本語から英語の通訳は本当に苦労します。
Ahとかohhとか呟きながら、まあ分からないだろうと適当に意訳してごまかしたのですが、本当はこれではまずいはずです。
幹部自衛官は英語が話せる方が多いので、私のインチキ英語はバレていたに違いありません。

米軍さんはみなさん良い人たちでした。

米軍は仕事のスタイルも日本と全然違うのを感じます。
日本の自衛隊は良くも悪くも昭和の雰囲気を漂わせています。
一方で、米軍はいま風の外資系企業のようです。
どう違うかを具体的に記すことができないのですが、自衛隊が米軍に見習うべき点はかなりあるように感じました(特に装備や働き方について)。
もうひとつ特徴的だったのは私がいたセクションで米軍の副指揮官が女性だったこと。
大きな声で部下にバリバリ命令を飛ばしていました。
最近、米陸軍司令部(FORSCOM)のトップに女性として初めてローラ・リチャードソンさんが任命されたことがニュースになっていましたが、女性の社会進出も米軍の方が進んでいるようです。
いろいろありましたが、演習の最終日にあたる12月17日、他国からの侵攻軍を日米が力を合わせて北海道から排除し、国土防衛に成功したという設定で訓練は終わりました。

通訳としての自己評価

結局のところ、通訳としてはほとんど役立たずの私でした。
同じチームで同僚の予備自衛官は積極的な方で、どんどん手を上げて通訳に参加していました。
話を伺うと普段はアメリカ政府関係の仕事をされているそうで、まあ見事な活躍ぶりです。
一方の私は、なるべく通訳に呼ばれないようにずっとうつむいていました。
ふだん英語を使う機会がないため、英語力がかなりさびついています。
思えば数十年前の学生時代は英語を多少は使いこなしていたのですが、いまはもう完全にダメ男です。
このままでは次回の共同演習にお呼びがかかるか分かりません。
その時までに、英語力を相当ブラッシュアップしなければまずい、と痛感しました。
(冒頭の写真は米軍からいただいた感謝状)

予備自衛官に興味がある社会人の方へ

今回参加した訓練で国から1日あたり7,900円の教育訓練手当が支給されます。
決して高額な手当ではありませんが、通常の社会人生活では得難い経験ができます。
予備自衛官は本業を持つ社会人が前提ですので、訓練の参加日程はいまの仕事と調整が可能です。
英語以外の語学や、情報技術、医療、法律、土木など、さまざまな特技・専門を生かした道があります。
年に二回募集がありますが、近年は春の募集でだいたい定員締め切りになることが多いようです。
詳しくは陸上自衛隊採用ホームページをご覧ください。
予備自衛官補募集の案内(陸上自衛隊)

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